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2017.02/18 [Sat]
耀きのアムール その2 シソーエフ「森のなかまたち」

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ロシア沿海州・耀きのアムール その2 シソーエフ「森のなかまたち」
何かとロシアつながりで話題の米国大統領トランプ氏。彼は嫌いではないけれど、環境問題でも「温暖化のデータは嘘だ!まずは産業優先だ!」等の暴言で物議を醸しており、海流の流れで気温上昇をくい止めるにもこれまでが限界、という危機的状況に直面している人類、”温暖化、いつ とめる?今でしょ?”を痛感してほしいと願ってやみません。温暖化を遅らせる鍵は、唯一森林を増やすこと、ないしは護ることにあります。そんな昨今のクライシスなテーマもかんがみ、手つかずの広大なシベリアの森林地帯・アムールに暮らす動物たちの生態を描いた、素敵な物語を紹介したいと思います。
耀きのアムール その1http://yonipo.blog13.fc2.com/blog-entry-1429.html

日本海を隔てて北海道と隣り合う、極東ロシアのプリモルスキー州。
プリモルスキーとは「沿海地、海岸地」を意味することから、日本では沿海州と呼ばれることが多い。
東南に日本海に面し、アムール川を北限とし、ウスリー川を西限とする。北はロシア領のハバロフスク地方で、西に中国、南に北朝鮮と国境を接する。東は日本海を挟んでサハリン州(樺太・千島列島・歯舞群島・色丹島)がある。また中部ウラジオストクから北の中国との国境にはハンカ湖(興凱湖)がある。日本海沿岸にはシホテアリニ山脈がそびえ、豊かな自然が残っており世界遺産に登録されている。
極東ロシアの町ウラジオストックを中心に、200万人あまりが住むこのプリモルスキー州は、16万5,000平方キロ、北海道の倍近い面積を誇り、そのうちの実に7割以上を森林が占めるという。森林地帯は沿海地方の74%を占め、ここには狼、虎、熊なども生息している。
アムール流域 黄色い線はアムール川

民族的にはどうだろう。
現在プリモルスキー州にはロシア人をはじめとするスラブ民族が最も多いが、近年隣接する中国から流入した漢民族が顕著に増加しているようだ。元来は先住民族であるウデヘ人、ナナイ人、ウルチ人などのツングース系民族の居住地であり、清の領土だった時代から住んでいる中国人もいる。朝鮮民族(高麗人)の多くはソ連時代に日本の植民地化にあったことから敗戦と共に中央アジアに強制移住させられているが、沿海地方に帰還している家族も多いと聞く。1992年のソビエト連邦崩壊の前後からは、ロシアの森林行政に混乱が目立つようになり、その後導入された経済の自由化政策は、海外からも商社や伐採企業を沿海地方に引き寄せたという。これは、 アムール(シベリア)トラの密猟が急増した時期にも一致している。
森林行政の混乱と同時に地域の貧困も違法伐採の横行を生み、伐採された森では乾燥化が進み、大規模な森林火災が発生して森の減少に拍車をかけている。
ロシア沿海地方では今、森林の自然と、野生生物、そして森で長い間暮らしてきた先住民の人たちの暮らしが脅かされているという。
アムールシマリス

アムールの保護を訴えるポスター

順序立てて動植物の生態系を表しているが、その連鎖を断ち切る人間の姿が。
極東ロシアの森には、数多くの野生が息づいている。
野生生物の生息環境である森が失われることは、人にとっても大切な豊かな森が失われてゆくことでもある。いま、森とそこに生きる生きものたちを守る取り組みが必要とされている。
極東ロシアのアムール地方には、広葉樹と針葉樹が交わり、四季おりおりに美しい姿を見せる豊かな森が広がっている。人や野生動物たちに、多くの恵みを与え続けてきたこの森には、その生態系の頂点に立つアムールヒョウをはじめ、シマリスやクマ、シカやイノシシなど多様な野生動物が息づいているのだ。シマリスが埋めたまつぼっくりの実から新たな木が芽生え、若木をシカが食べ、そのシカをアムールヒョウが食べる・・・こうした多様ないのちのつながりによって、森に豊かさが保たれているのである。
ヒグマとツキノワグマが暮らし、トラやヒョウがひそむアムールの森。斜面を駆け上るニホンジカ、空を舞うオオワシ、巨木に巣をかまえるシマフクロウ。日本では、ほとんど見ることができなくなってしまったコウノトリ。
この生態系の頂点に立つのが、シベリアトラとアムールヒョウであるが、2種のクマ(ヒグマ、ツキノワグマ)、トラ、そしてヒョウ。いずれも食物連鎖のトップに立つ動物を、4種も支えてきた沿海地方の森がそのたぐいまれな豊かさを、いま急激に失いつつあるという厳しい現実を見据えつつ、アムールの”森のなかまたち”を擬人的に描いた楽しい物語を紹介してみたいと思う。

主人公となる動物たちは
ヒグマ、オオカミ、イノシシ、アカシカ、トナカイ、ヘラジカ、タヌキ、キジ、リス、シマリス、クロテン、ミンク、オコジョ、イイズナ、鮭 などであるが
『森のなかまたち』は、いつも本気で生きている、いや、数々の迫害にますます大本気のサーバイバルを余儀なくされている動物たちの命の輝きと悲鳴が聞こえてくる、そんな作品である。
私の拙い表現力では、この本は単にロシア版シートン動物記と解釈する人も多いと思うが(でもシートンは、美雨も子供の時から愛読書です^^)、シートンよりヒューマニティを感じ、ロマンティックでポエティックなのは、やはりアムールならではの抒情なのかもしれない。
また、挿絵画家の森田あずみ氏の挿絵に、そのような”詩”がある気がする。
俗っぽい表現かもしれないが、シートンが快活なジャズギターの響きなら、シソーエフのそれはどこか物悲しいバラライカの響きとでもいうのだろうか。私はバラライカの響きが好きだ。
ロシアの民族楽器、バラライカ演奏(BGMにどうぞ^^)
http://www.youtube.com/watch?v=Ln9MdfsZfDw&feature=related
こんな楽しいバラライカも
https://www.youtube.com/watch?v=JjdDq0IqBDc&index=3&list=RDbWh3aAodUJk
http://www.youtube.com/watch?v=bWh3aAodUJk&feature=related

イイズナ オコジョに似ているがすこし大きい。イタチ科

上に挙げたように、16種の動物たちが各主人公を演じる『森のなかまたち』、私の最も好きな章はイノシシ(アムール猪ザーヴォロチェニ:はねっ返りの意)、灰色(オオカミ)、ちび助の航海(イイズナ)であるが、とりわけお気に入りのイイズナの冒険物語を少し記してみたい。
イイズナという動物は、日本人には馴染みが薄いかもしれない。じっさい、私もエゾオコジョかイタチの小さいの位に思っていた。イイズナは、オコジョより大きくて、イタチより小さく、季節によって毛皮の色を変える夜行性の小動物で、北海道にも分布しているという。可愛い顔に似合わず狩上手で、ネズミや野ウサギをたちどころに捕らえてはがつがつと食べるハンターだ。
普段海から遠いアムール・タイガの森に住んでいるイイズナが、夏の暴風雨で家ごと濁流にのまれ、大河を下って大海に出、違う大陸へとサーバイバルな冒険へとかりだされる「ちび助の航海」は、とても気になる章だ。
こんな小さい生き物が何万キロという旅をし、島か、新大陸か)の住民となり、逞しく新境地を開いていくというスケールの大きい物語だからだ。いや、物語ではないと思う。実際こうして生き延びた種が、サハリンやオホーツクの島々に流れ着き、北海道でもその姿を留めているのは、ほかでもない、シソーエフ博士の物語がドキュメンタリーでありノン・フィクションであるということをつくづく偲ばせるのだ。
『森の仲間達』ちび助の航海より ポプラ流木のうろに隠れているイイズナ

ちなみにイイズナの棲み家は、森のほとりに横たわるポプラ大木の”うろ”であったが、急流から谷間の澪へ、そしていつしか大海で揺られる流木となり、生死を賭けた”船旅”で冒険するイイズナの姿は、まさしく「ちび助の大航海」である。
もちろん旅の途中で溺死もしくは衰弱死してしまうイイズナのほうが圧倒的に多いのは想像に難くない。だが、ちび助は、ポプラに棲息したあらゆる甲虫やアリを食べ、たまたま流木に飛んできたカゲロウを食べ、流木で休息をとった渡り鳥オグロシギにとびかかり、三日分の食事にありつき空腹を満たしつつ、最後の難関サバイバルであるオホーツク海の嵐と対峙する。
うろは海水で溢れ、もはや絶体絶命のイイズナが、頭を水に濡らし、体が動かなくなったとき、大粒の砂利の上に打ち上げられたポプラのうろから水が溢れ出て、その後、”半死半生の乗客”は、何週間かぶりに外へ抜け出た。
そうとも、チビ助は初航海の冒険に勝ち、空腹と渇えに勝ち、嵐に勝ち、新たな大陸に立ったのだ。
ちなみに美雨はこのイイズナのちび助が辿りついた別天地は、当然のことながら樺太(サハリン)島ではないかと確信している。
島の気象学者の薪小屋を新しいすみかに決めたイイズナを目にした無線技士は驚いて「おい、みんな!イイズナがすみついたぜ!」と叫ぶ。
普段は遠い測候所に住んでいるイイズナがどうやって山がちな島に現れたのか知る者はいない。
シソーエフ『森のなかまたち』のイイズナの章のラストはこう綴られている。

アムールタヌキの章 ”ヤーシカ珍道中”
『森のなかまたち』では、森の四足、二足のなかまだけでなく、ヒレをもつ生き物までが人間の如く生き生きとドラマティックに描かれている。アムール鮭までが(銀ちゃんの一生)それぞれ固有名詞で名を持ち、愛称から文脈の小さなフレーズにまで、シソーエフ博士の愛を感じてならない。
そこで最後に、作者のシソーエフ氏についての紹介をして、アムール記事1.2の結びとしたいと思う。
あとがきからの総括であるが、これだけでも、氏の人となりや生きざま、そして思想までを読みとれると思うので、抜粋したい。
訳者岡田和也氏あとがき
1997年にロシア文化基金ハバロフスク支部から発行された『シソーエフ フセーヴォロド・ベトローヴィチ/博物学者 作家』という小冊子には、次のように記されています。「人生の晩年を迎えて、私には、自由、安らぎ、自然との触れ合いの他、贅沢も、富も、名誉も要りません」「人間と自然の闘いにおいて恐ろしいのは、人間による動植物界の絶滅ではなく、自然の汚染、自然の調和と均衡の破壊、気候の変動です。技術は進歩しているものの、人間は改善されておらず、道徳は向上していません。」「自然の中には、私は、攻撃、ヒエラルキー、カンニバリズム、生存のための闘争を見て取ります。それは、もっともなことなのです。けれども、人間は、もしも生き存えたいのなら、それらの本能を自分の内に収めなくてはなりません」「すべての熱中や愛着の対象のうち、私に残ったのは、自然観照への愛、庭仕事の愉しみです。今は動物よりも植物に心惹かれます。植物は、動物や人間よりも早く地上に現れました。自然は、妙なる美しさと友愛の心をそれらに授けました。私たちは、植物の感覚についてほんの僅かなことしか知りません。けれども、草木に囲まれていると、私は、いつも心が安らぐのです。」

ハバロフスク支局からのプレゼントとなる著書『ツキノワグマ物語』を手にした
ハバロ在住の著者フセーヴォロド・シソーエフ氏
ひいきめではないが、『森のなかまたち』はシートン以来、動物ものの本というイメージを突き破って、大人の自分にも新境地を開いてくれた素敵な作品であった。『森のなかまたち』の古典ともいえる『ツキノワグマ物語』も是非とも読んでみたいと思っているが、スターウォーズのEpisodesやサケの銀ちゃんの回流よろしく、遡及してゆく読み方も案外”おつ”かもしれない、と考えている。
上にも記したが、『森のなかまたち』はオムニバスドラマ形式のドラマみたいに、ヴィジュアルに迫ってくる各動物ごと各話完結の物語で、読みやすく、飽きない。
というより、知っているようで知らなかった動物の生態だけでなく、アムールの森独特の生態環境や動物たちの気持ちが伝わってくるのは、作者のシソーエフが探検家、狩猟学者、地理学者等幅広い専門分野と経験、知識を経た立場からこそ描ける、動物の視点で伝えている点。
物語といっても、中途半端なメランコリックさはなく、戦いや、冒険や、ときとして絶望、死に対峙する真剣勝負な彼らの生きざまが吐息レベルで伝わってくる、そんな作品に思う。
その中にも、愛があり、優しさとドラマを感じるのは、シソーエフならではのアムールに暮らす森の仲間達へのアムール:”愛”によるものかもしれない。
美雨
最後まで読んでくれてありがとネ!

数が減少している貴重なアムール虎より

"pocchiしてネ切手!?"より
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(>ω<)3ポチに感謝デス♪
コメントをいただいたブロ友の皆さま
素晴らしいコメント、優しいコメント、心にひびくコメントを本当にありがとうございます。
花粉症がピークで、点鼻薬と飲み薬を処方してもらいましたが、副作用か気管支炎ぜんそくが出てしまいました
春一番が吹いてから、鼻はかみっぱなし、詰まりっぱなし、咳とヒューヒューが非常に苦しいです。
コメント返しが遅れてしまい、本当に申し訳なく思います。<(_ _)>
今回は、皆さんのブログに回りながら、コメ返しにご挨拶などさせていただきたいと思います。
はやく治すよう、がんばります。<(_ _)>ペコリン
美雨
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